デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。
社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。
死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。
苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。
裏表紙のあらすじに”デザイン会社に勤める主人公が失恋と激務でうつを発症した”
とあり、もしかしたらデザイン系の職業のキツい描写があるのかも…と本筋とは全く関係のない部分に興味を惹かれて購入。
著者の代表作”ふがいない僕は空を見た”は読んでいなかったため、窪美澄さんの作品を読むのは初めて。
前作に対する好評価はいたるところで目にしていたので、期待に胸を膨らませて読み始めました。
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生きることに疲れた人に
この本の伝えたいことをまとめると、本文でも登場する“死ぬなよ”という一言に尽きるのだと思います。
この物語は主に三人の登場人物から成り立っています。
そして、それぞれが死にたくなるような悩みを持っています。
それは、自分が原因であったり周囲の環境が原因であったり様々ですが、
それぞれの登場人物の年齢や性別などの違いから、人間が抱く様々な悩みを網羅しています。
大雑把に分類すると
- 社会人男性としての悩み(恋愛・仕事)
- 貧困と母親としての悩み(金銭・育児)
- 娘としての悩みと死についての悩み(親との関係・死への向き合い方)
これらの悩みが大なり小なり一つも引っかからない読者はいないのではないでしょうか。
そして、各々の苦悩が如実に描かれているのも、この小説の素晴らしいところ。
世代や性別の関係で全く通ることのない内容でもしっかりと体感した気持ちになります。
同じ世代・性別の登場人物でも感情移入ができない小説も多いなか、複数の登場人物にここまで感情移入し、暗い気持ちになったのは久しぶりでした。
しかし一方で、物語終盤の一番盛り上がるべき場所であろう部分が、いまいち印象に残らなかったです。
決して話が面白くなかったとか、現実味がなかったとか、御涙頂戴すぎたとか、そういうことではなく、最後までストレスなく読むことができましたし、話の落とし所としても全く問題ない。
登場人物たちを投影した”浅瀬に迷い込んだクジラ”という発想。
そして、それぞれの受ける救済。
“死ぬなよ”という言葉でここまでハッとする経験もなかなかない。
では、読後のモヤモヤ感はなんなのか…
考えてみたところ、前半で受けた衝撃が強すぎたのが原因だという結論に至りました。
こればっかりは仕方がないことなのかもしれませんが、欲を言えばもう少しバランスを…
“落として上げる”という手法で、私は上がりきらなかったです。
しかし、この表現力と物語の構成力。窪美澄さんが世間から好評価を受けるのも納得です。
代表作”ふがいない僕は空を見た”や、その他の作品も手に取ってみようと思います。