小説の神様 (講談社タイガ)

小説は、好きですか? / 小説の神様 相沢沙呼

先日知り合いから聞いたことなのだが、
就職活動中の学生を除けば、現代社会においては『読書』というものは、もはやマイナーな趣味になってしまったのだという。

その際はそんな馬鹿なことと思ったのだが、考えてみれば能動的に趣味として本を読むというひとが、いったいどれくらいいるだろうか。
以前読んだネットニュースによれば、特に若年層では、雑誌や漫画を除いて、月に1冊も本を読まないというひとが大半なのだという。

出版不況が言われ始めて随分と久しいが、事実として小説の発行部数、売り上げは年々減少し続けている。
ひとりの小説好き、フィクション好きとしては、単純に悲しいことであるが、これだけ娯楽が溢れた現代においては、ある意味では仕方の無いことなのだろう。

ところで、今わたしはあなたに問いかけたい。

──あなたは小説が好きですか?

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新レーベルから、相沢沙呼の最新作!

相沢沙呼といえば、2009年に『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビューした作家。
その後はミステリーだけでなく、青春小説やライトノベルの執筆、漫画原作など、幅広いジャンルで活躍している、いまもっとも注目される作家の一人である。

そんな相沢沙呼の最新作『小説の神様』が、2015年10月に創刊されたばかりの小説レーベル講談社タイガから、先日6月20日に発売になった。

『小説の神様』は、次々と新ジャンルへの挑戦を続けてきた相沢沙呼が描く、まったく新しい試みへのチャレンジである。

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リアルすぎる、小説の小説

本作の主人公は高校生作家。本作は小説を書く人たちを題材とした小説だ。

小説家をテーマにした小説は、ジャンルとしては特に目新しいものでもない。文学少女シリーズなど、パッと思いつくだけでもいくつかの作品を上げられる方も多いのではないだろうか。

しかし本作のその書き方は、これまでの小説たちとは全く違う切り口となっている。

文学少女が夢を描いたものなら、本作はその真逆。
リアルすぎる現実を突きつけたものだ。

《作品紹介》
僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。
彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は?
書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!

あらすじを読んでも分かるように、本作は青春小説だ。
売れない高校生作家の主人公のもとに、売れている高校生作家のヒロインが転校してくるという、
構造としては実に単純なボーイミーツガール。

しかし本作の特徴は、これまでの小説にはなかった圧倒的な生々しさである。

売れない作家と売れている作家を主要人物に置き語られる内容は、
出版業界の厳しい現状。
部数やお金の話、続編が出るか打ち切りとなるかのシビアさなど、
ある意味ではタブーとされてきたようなことたちを惜しげもなくさらけ出している。

作者本人が「なにかを表現するために闘う人たちに、読んで貰いたいお話です」と語っているように、
それは単純に、普通では知ることが出来ない出版業界の裏事情を知るという意味でも非常に興味深い。

メタ小説は作者を映す

そして本作のもう一つの特徴は、そのメタ小説としての構造にある。

殆どの人がすぐに気づくことだとは思うが、
売れない作家である本作の主人公は、明らかに相沢沙呼本人をモデルにして書かれている。

また、実在のモデルがいるのかは分からないが、恐らく本作のヒロインは、作者の理想とする作家像なのではないかと思う。

本作の作者である相沢沙呼氏のツイッターでの愚痴は、氏のファンの間ではある意味で有名である。
(実際のところわたしは相沢沙呼が売れていない作家だとは思わないが)売れない作家の実情や苦悩が、赤裸々すぎるほどに吐き出されているのが相沢沙呼のツイッターなのだ。

そんな相沢沙呼の最新作が、売れない作家を主人公として書かれたとは、なんとも皮肉なことではないだろうか。
本作は売れない作家が、苦しみながら、もがきながら、それでも小説を書くということに真正面から向き合う物語である。

本作が生まれた経緯や、作者の気持ちを想うと、
ひとりの相沢沙呼ファンとしては、それだけで胸にこみ上げてくるものがないだろうか?

もちろんそういった事情を抜きにしても、物語自体が素晴らしい出来であることも間違いない。
特に、少女や若者の繊細な感性や、瑞々しい風景描写に定評のある相沢沙呼が書いた青春小説なのだから、面白くないはずがない。痛々しいほどにリアルで、それでも小説が好きなのだという気持ちがありありと感じられる文章力は流石というより他に無い。

小説のもつ力

本作は、何度打ちのめされようとも、小説を書くことを決して諦め切れなかった作家の物語。
これは他でもない相沢沙呼だからこそ書くことが出来た小説なのだ。

人生において物語を読むことは、直接的には何の意味も無いただの娯楽かもしれない。
それでも、物語を読むことでそこから力を貰い、また現実へと立ち向かう勇気をもらえることもある。
そんな小説への愛が溢れる物語だ。

もし本作に興味を持ってもらえたなら、
是非、感謝と共に本作に触れてみて欲しい。

わたしたちが小説を楽しむことが出来るのは、まさしく命がけでそれらを書いてくれる作者あってのことなのだから。

そして、今あらためてあなたに尋ねたい。

あなたは──
小説は、好きですか?

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg