ケシゴムライフ (トクマコミックス)

サブカルの次世代を担うか / ケシゴムライフ 羽賀翔一

「だいぶ右上がりになってますね……」

「いえ、これはきっと一生懸命に伝えようとして、
──言葉が踊っているんです」

ここのところ、自分の中でのメロコア熱が再燃してきている。理由は気に入るバンドを見つけたからなのだが。久しく足を向けていなかったタワレコへ行き、いつのまにか聞かなくなってしまっていたインディーズパンクのコーナーを回ってみたりしている。

ひと昔前。およそ高校生から大学にかけての間、わたしはいわゆるサブカル厨と呼ばれる人種だった。大きなヘッドフォンを首から下げ四つ打ちの曲を聴きながら、浅野いにおを愛読するような学生時代を送っていた。
もちろん今でもその手の作品を嫌いになったわけではないのだが、大人になるに連れて知らず知らずのうちにそういったもの達から離れてしまっていた。

だからこそわたしにとってパンクやメロコアといった音楽ジャンルは、懐かしさを呼び起こさせるものだ。そこには自ずと青春の思い出が付きまとう。
そして全く同じ理由で、サブカル系統の漫画もまた、わたしにとっては同様の想いを呼び起こさせる。

そんな懐かしい思い出を感じさせる漫画を読んだ。羽賀翔一のケシゴムライフという作品だ。

漫画家を育成するファンドの全面支援によって発行されたらしいこの漫画は、全体を通してサブカル臭が溢れる(褒め言葉)短編集となっている。
デビュー作だけあって画はまだまだ荒削りだが、各話ごとにしっかりしたテーマがこめられている。画力を補って余りある、活き活きとした人物描写こそがこの作者の持ち味なのだろう。表現したい、伝えたいという作者の想いが、漫画のキャラクタを通じてこちらにも伝わってくるようだ。

特に表題作であるケシゴムライフは秀逸である。
微妙に醒めたような、世を拗ねたような空気と、シュールさを感じさせるギャグの描写。一方で心がほっこりするような物語の締め方や読後感は、まるで初期の浅野いにおを彷彿とさせるかのようでもある(もちろん画力は遠く及ばないが)。

軽く調べた所によると、作者は既に次回作を連載しているようだ。

何作か作品を読んでみるまではまだまだ判断を下すことは出来ないが、わたしの思い出をくすぐった羽賀翔一というこの作者が、次世代を担うサブカル作家になれるかどうかに注目して、次回作を待ちたいと思う。

ちなみにわたしにサブカルの扉を開けさせた、浅野いにおの『ソラニン』だが、それをはじめて読んだときわたしはまだ10代だった。
ソラニンの登場人物たちは24歳。いつの間にかわたしは、もうその年齢を追い越してしまっている。

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg