また、同じ夢を見ていた

あなたはいま、幸せですか? / また、同じ夢を見ていた 住野よる

夢というものは不思議なもので、見ているときはそれが夢だと気づかない。
一昔前に流行った明晰夢などといったものは例外として、一般的にはそのさなかでは、夢は現実と変わらない。

それなのにそれは目が醒めると、水彩絵の具が水に溶けるように、すっと消えてしまう。
そのあとに残されるのは、夢の欠片とでも呼ぶような、ただ感情の余韻だけだ。

そんなことを書いていて、ふと、最近あまり夢を見ていないことに気が付いた。
恐らく、忘れてしまっているのだろう。

夢見る暇も無いほどに、この現実はあまりにも忙しない。

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キミスイ作者、待望の最新作

本屋大賞にもノミネートされ、デビュー作でありながら一躍ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』の作者、住野よるの第二作が先日発刊された。

『また、同じ夢を見ていた』というタイトルのその小説は、発売ひと月も経たないうちに、既に前作を越えるヒットの兆しを見せ始めている。

この小説は、賢いけれど嫌われ者の女の子が、友人である優しい大人たちに導かれて成長していくお話だ。

言葉にしてしまえばその構造は実に単純だ。言葉を選ばずに表現してしまうなら、ありふれた題材だと言っても良い。
けれどそれを退屈せずに読むことが出来るのは、ひとえに作者の文章センスの為せる業だ。小学生の女の子の目線を通じて描かれる世界の、なんと瑞々しいことか。
前作でもそうだったが、この著者の文章はとても素直だ。もちろん難しい比喩や文学的な表現がないわけではないが、著者は文章を通して、ストレートな気持ちを伝えるということに、とことん力を割いているように思う。

子供の頃のわたしたちが感じていたそのままに世界を切り取ったかのような描写は、だからこそハッとさせられるようなことも多い。それは大人になるにつれて、わたしたちがいつしか忘れてしまっていた、あのころの気持ちを思い出させてくれるからだ。

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幸せとは何か。人生とは何か

そうして書かれる本作のテーマは、ひとにとって最も重要で、最大の難問。
『幸せとは何か』

それはつまり、
『人生とは何か』と同義である。

ひとは何故生きるのか。何のために生きるのか。
そんなことをこれまでに一度も考えたことのないひとはきっと居ないだろう。

『また、同じ夢を見ていた』では、少女が友人たちや周囲の人たちとの触れ合いの中で、幸せとは何かを見つけようとする。
少女の口を介して、あるいは誰かの想いとして、著者の考える幸せとは何かが語られる。
そこには様々な考え方があり、様々な答えがある。

もちろんそれが絶対の正解だなどと言うつもりはない。だが、良い人生を生きる上で重要ないくつかのヒントを与えてくれることは、間違いないだろう。

あなたはいま、幸せですか?

人生は望むと望まざるとに関わらず、常に分かれ道の連続だ。良くも悪くも、そこには、絶えず選択がつきまとう。それならばせめて、少しでも後悔しない道を選びたい。

もしあなたがいま、人生の岐路に立っているのなら。あるいは、この世界がくだらないものに思えるのなら。
ぜひこの小説を読んでみてほしい。

世界の見え方を少しだけ綺麗に変えてくれるような。いつもより背筋を伸ばしてみようと思えるような。これは、そんな風にあなたの世界を変えてくれる。そんな力を持った小説だ。

あなたはいま、幸せですか?
この物語にはそんな問いかけが詰まっている。

この物語は、疲れた心を休めるために、やさしく奏でられる子守唄。

人生に迷い、目まぐるしい日常に疲れきったあなたにこそ、この物語が必要です。

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg