あなたにはラジオを聞く習慣がありますか?
私はラジオを聞く文化が殆どなかったため、地元の放送局のものくらいしかなじみ深い番組はないのですが、知人と話していると今でもラジオを聞いている人も結構いらっしゃっるみたいで…
そんなラジオ番組をテーマにした沙村広明の新刊『波よ聞いてくれ』が最高でした。
渡会けいじさんの『O/A』や水谷フーカさんの『満ちても欠けても』など、ときどきテーマとしてあがることのあるラジオ番組。
それらの作品で描かれていた“ラジオ局で働く人たちの真摯な姿”に胸を打たれた人も多かったのではないでしょうか。
さきに断っておくと、この『波よ聞いてくれ』の作品内では(少なくとも第一巻では)、ラジオ業界に関する描写はそこまで多くありません。
堂々とラジオ漫画的な煽り文句で陳列されているのを発見して、興味を惹かれた人も多いと思います。表紙詐欺だと思う人もいらっしゃるでしょう。
しかし、ラジオ業界についての描写が少なくてもこの漫画が面白いことは間違いありません…!
騙されたと思って第一話を試し読みしていただきたい…!
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濃過ぎるキャラクター
いつもは題材や設定にひとくせあったり、グロテスクな描写が入っていることが多い沙村広明さんの作品ですが、今作は完全な万人向け。
舞台は北海道サッポロ。主人公の鼓田ミナレは酒場で知り合ったラジオ局員にグチまじりに失恋トークを披露する。すると翌日、録音されていたトークがラジオの生放送で流されてしまった。激高したミナレはラジオ局に突撃するも、ディレクターの口車に乗せられアドリブで自身の恋愛観を叫ぶハメに。この縁でラジオ業界から勧誘されるミナレを中心に、個性あふれる面々の人生が激しく動き出す。まさに、波よ聞いてくれ、なのだ!
そう。現代の日本で普通な女性の物語です。
しかし、この主人公であるミナレさん、とても残念です。
美人なはずなのにとても残念です。
第一話から見事な残念さ。
そして話が進むにつれて出てくる更なる残念さやゲスさ…
…
……
素敵ですね!
そして、他の登場人物たちも総じてヤバい。
突出した(あまりにも非現実的な)キャラの濃さというよりも、常識の範囲内で出来る限りキャラを濃くしたという感じ。
みんながみんなこんなにキャラクターが濃くてよいのだろうか…と心配になるレベルの濃さです。
しかし、全員のキャラ付けが明確で、濃さがはっきりしている分、物語(会話)がスムーズに進んでいきます。
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面白さに振り切った作品
第一巻を読み終わり、とても満足した気持ちで本を閉じたのですが、思い返すと“どこのシーンがそんなに面白かったのか”がどうしても思い出せませんでした。
それなのに“すごく面白かった”という気持ちだけが頭から離れなかったため、もう一度読み直してみることにしました。
そして常に面白かったから特徴的なシーンが思い出せなかったということに気付きました。
まず、特徴的だったのは会話のテンポ。とても速い。
本来なら書かなくてもいいような本筋とは関係のない会話が、どんどん展開されていきます。
普通、それだけ本筋から外れた内容が多いと、飽きてしまったり、話のテンポの悪さにヤキモキしたりする気がします。
しかし、それらの会話の内容や言葉の選定が秀逸すぎて全く気になりません。むしろ、このくだらなくて面白い会話をずっと読んでいたくなる気持ちにさせられます。
ギャグ漫画にありがちな“大きなコマをつかって面白いことを言ってやろう”という気負いがあるわけではなく、何気ない会話や大きな意味を持っていない会話にも面白いフレーズや言い回しが、これでもかと入っています。
もともと、シリアスな作品でも要所にクスッとくるようなネタを差し込んでいた沙村広明さんでしたが、今回はまさにぶっ込んできたという表現がしっくりくるようなネタの多さです。
日常系でアップテンポのギャグ寄りの作品を描かれると、ここまで面白くなるのですね…!!
最近のシリアス主体の作品も素晴らしいのですが、このテンションも最高です。
ラジオに関わるような話はほとんど動き出さなかった第一巻でしたが、今後本筋と絡めてどのような面白い展開になっていくのか…
とても楽しみです。