世間はいま『枯れ専ブーム』。
去年の10月に書いたアキヤマ香さんの「長閑の庭」のエントリに訪れてくださる人が後を絶ちません。
ありがたい気持ちと共に、自分のなかではニッチなジャンルだと思っていた“枯れ専”が、ここまで人気であることに驚きを隠せません。
さて、今回ご紹介する眉月じゅんさんの『恋は雨上がりのように』は、「従来の年配の男性とはひと味違った魅力」を感じることができる作品です。
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冴えない枯れ
枯れ専漫画に登場する主人公が恋する相手の初老の男性によくある特徴として、
- 知的
- 落ち着いている
- 言葉遣いが丁寧
などを思い浮かべる人は多いと思います。
年を重ねたからこそ滲み出るこの魅了は、同年代や年下の男性から感じ取ることは難しく、多くの女性がときめくのも納得できます。
また、男性からみても尊敬せずにはいられない良き人生の先輩という印象を受けるでしょう。
しかし、本作の主人公“橘あきら”が恋する相手は、バイト先のファミレス店長。
クレーマーにも強気に返せず…
ファミレスの店員には舐められ…
十円ハゲがあり…
ズボンのチャックは開きっぱなし…
一言で表すならば冴えない中年です。
上に挙げたような枯れ専の特徴にかすりもしないような残念さ…
そんな、お世辞にも魅力的とは言えない店長に、なぜ恋をしてしまったのか…
本作を読み始めると、まず、この疑問が浮かびます。
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優しさ
しかし、この非常に失礼な疑問を抱くのも序盤だけ。
読み進めるにつれて、店長の本当の素敵な部分が徐々に理解できてきます。
それは優しさです。
この店長の唯一とも言える素敵なところが優しさ…
なんという地味な特徴…
最近の漫画において、主人公の女性が恋をする相手の特徴として、優しさは前提条件にあって、そこから更に別の魅力が付いてくるのが一般的な印象があります。
もしくは、怖そうに見えるキャラクターが実は優しいなどというギャップで使われる場合などもありますね。
しかし、本作で主人公が恋する店長は、そんな当たり前で見落とされがちな優しさという魅力を全面に押し出したキャラクターです。
そして、作者の○○さんは、この優しさを描くのが非常に上手い。
ひとつひとつの描写がとても丁寧で、店長の優しさがこれでもかと伝わってきます。
読み進めるほどに、ただの冴えない中年だった店長が、どんどん素敵なおじさんに見えてくるから不思議です。
それに加えて、主人公の橘あきらの店長に対する想いの純粋さや、作品全体の透明感・清々しさとあわさって、古き良き漫画を読んでいるような気持ちにさせられます。
絵柄自体も少し古めなので、手に取るのを躊躇ってしまう人もいらっしゃるかもしれませんが、騙されたとおもってぜひ手に取っていただきたい。
色々な恋愛漫画を読んできた人にとっても、初心に返られるような素敵な作品です。