『等価交換』
この言葉を耳にして荒川弘さんの『鋼の錬金術師』を思い浮かべない人はいないでしょう。
最早説明する必要がないほど大ヒットした作品ですね。
さて、今回ご紹介する佐原ミズさんの新刊『神様のジョーカー』も、等価交換が物語の鍵を握っています。
ここ数年は『マイガール』や『鉄楽レトラ』など、ハートフルな人間関係を描いてきた佐原ミズさん。
また、原作がある作品を描くのは『私たちの幸せな時間』以来。
骸骨に抱かれている青年が描かれた表紙から、どことなく空恐ろしい雰囲気を感じる本作。
一体どのような物語なのでしょうか……
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幸せと不幸せの等価交換
この作品で描かれている等価交換とは幸せと不幸せの等価交換です。
平凡な男子大学生・緒方希和(おがた・きわ)。
就活もうまくいかないし、年上の彼女・茉洋(まひろ)には叱られてばかり。そんな希和には、一つだけ誰にも言えない秘密がある。
――それは「願いを叶える力」を持っていること。
けれどそれは代償が伴う危うい力。
しかし、その力の存在を茉洋に打ち明けたことで、二人の運命の歯車は徐々に狂いだす――。
このあらすじからも分かるように、願いを叶える力を持っている希和が本作の主人公です。
願いが叶った後には、その幸せに見合う不幸が訪れることを理解している希和は、その力を使わないように努めています。
(この力は先天的なもので、力を得た経緯などは一巻では明かされていません。)
しかし、彼女である茉洋に、彼女が勤めている会社の入社試験を受けることを促された際に、その能力について明かしてしまい、その能力を使うように説得されます。
茉洋に後押しされる形で、自身の入社を願い、晴れて彼女の会社に入ることのできた希和。
しかし、希和ではなく茉洋の親族に不幸が起きる……
自分の身の回り以外でも不幸が起きてしまうことを知り、力を使うことを恐れる希和と、自分のためにもう一度だけ願いを叶えて欲しい使って欲しいと頼む茉洋……
茉洋の願いを自分の願いとして願うことで、茉洋の願いを叶えた希和だったが、この願いには一体どれほどの代償が支払われるのでしょうか……
というのが、一巻のざっくりとした流れになります。
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人間関係 > 魔法
上のあらすじだけを読むと、表紙の雰囲気や”願いを叶える力”という言葉から、最初に抱いたとおりの空恐ろしい印象を受けていると思います。
しかし、実際に読み進めていくうちに、この漫画は人間関係を描いた漫画だということが明らかになっていきます。
特殊な力をテーマにした作品と分かっていながらも、良い意味でそれを感じさせない。
その原因は佐原さんの描く登場人物の人間らしさ。
主人公である希和の弱さや優しさ、また、彼女である茉洋の精神的な強さ。
これらが前提として丁寧に描かれていることで、希和のもっている願いを叶える力が、物語を進める要素のひとつとして捉えられている気がするのです。
そのため、出来る限り力を使いたくないと思う希和も、力の存在を知って、徐々に変わっていく茉洋の様子もとても自然に感じられます。
とても雑な例え方をするなら、少女漫画におけるイケメンや金持ちと変わらない、要素のひとつ。
あくまで、物語のフックとしての超能力と言えるでしょう。
これは、今まで心暖まる人間関係を丁寧に描いてきた佐原ミズさんだからこそ、感じることのできる違和感のなさだと思います。
願いを叶える力を通して、人間の弱さ・繊細な精神面が描かれている本作。
第一巻が非常に気になるヒキで終わっていて、続きが楽しみでなりません。