先日、第19回文化庁メディア芸術祭に行ってきました。
アート・エンターテイメント・アニメーション・マンガと、それぞれの部門で優れた作品が顕彰されるフェスティバルです。
アートやエンターテイメントと同列に、アニーメションとマンガが部門として確立しているのは日本ならではな気がします。素晴らしい文化ですね。
他の部門は、映像やインタラクティブな作品が展示がされているなかで、原画や資料、試し読みができる漫画が並べられているだけの、他の部門に比べて派手さがないマンガ部門も、他の部門と同じように人で溢れていました。
さて、今回ご紹介する田亀源五郎さんの『弟の夫』は、その第19回文化庁メディア芸術祭で優秀賞をとった作品です。
『美術手帖』のBL特集で名前だけは存じていたのですが、最近流行のライトなBLっぽくない絵柄から読むことを躊躇ってしまい、今日まで手に取る機会がありませんでが、本作はゲイアートの巨匠、初の一般誌連載作品とのこと。
表紙も可愛らしい雰囲気ですし、展示で原画を見た限りだと読みやすそうな気がしたため、軽い気持ちで手に取ってみました。
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日常系漫画
色々と語弊がある気もするのですが、この漫画をBL以外でジャンル分けするのであれば日常系という分け方がしっくりくるのかと思います。
単行本の表紙も、可愛らしいタッチと配色で、本来なら雄々しく映るであろう二人の男性が非常にマイルドな存在になっています。
弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。
マイクは、弥一の双子の弟の結婚相手だった。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚って出来るの?」。
幼い夏菜は突如現れたカナダ人の“おじさん”に大興奮。弥一と、“弟の夫”マイクの物語が始まる――。
あらすじの通り、父・与一と娘・夏菜が住んでいる家に、カナダに住んでいた与一の亡き弟の結婚相手・マイクがやってくるところから、物語は始まります。
本作は、この三人によって繰り広げられる穏やかな日常がメインです。
現在のところ具体的な同性愛の描写はなく、与一のマイクに対する接し方や弟に対する後悔と葛藤が描かれています。
また、絵面として一番注目したいのは、男性の逞しさ。
表紙から容易に想像できるとは思いますが、本作で登場する男性は、BLでよく見かける線の細い美男子とは違い、本作で登場する男性はとてもガタイが良く、顔も男らしいです。
BLというよいうよりは薔薇のイメージといえば伝わりやすいのでしょうか。
作中でときどき描かれる服を着ていないシーンは、肉体美という言葉がふさわしいほど筋肉質で雄々しいです。
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文化の違い・価値観の違い
この作品のテーマは、文化の違い・価値観の違いをどう受け入れるかということなのだと思います。
弟から受けたカミングアウトから無意識のうちに距離をとってしまったと感じていた与一は、マイクを通して、ゲイへの偏見が徐々に薄らいでいき、理解・納得しようとする気持ちは強く持ちつつも、どうしても今まで培ってきた社会の常識や周囲の視線を気にしてしまいます。
一方で娘の夏菜は、とてもフラットにマイクのことや与一の弟との関係を考え、疑問に思ったこと、大人には聞きづらいことを平気で口にします。
この子供ながらの純粋な目線は、この漫画を読んでいるであろう年齢層の人には、何かしら感じ入るものがあるのではないでしょうか。
この夏菜というキャラクターは、田亀源五郎さんの同性愛やLGBTのイメージを変えたいという強い気持ちの表れなのだと思います。
娯楽としてのBLや百合などではなく、イメージを変えていくための漫画。
専門誌ではなく、一般誌に連載したことも納得です。
与一がゆっくりとマイク、そしてマイクを通して弟を理解していくのと同時に、読者も同性愛やLGBTに対する理解を深めていくのだと思います。
また、話の間にいくつかのコラムがあり、LGBTに対する豆知識が丁寧に書かれています。そちらも普段の生活では知ることがないであろう内容で非常に面白いです。
次巻も楽しみです。