ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

不思議な世界を詰め合わせ/ニッケルオデオン青 道満晴明

『……わたし、フォーミュラ』
『コールドだ』
『ありがとねコールド』
『こちらこそ』

わたしは趣味で、たまに小説を書いたりしているのだが、それを友人に読んでもらい感想をもらったりすると決まって言われるのが、『回りくどい』という言葉である。一文が長く装飾が多い、であるとか、文の進みが遅いであるとか。

では回りくどさを回避するために簡潔に書こうと思うと、今度は逆に『内容が薄い』と言われてしまう。未だに忘れられないのだが、とある知り合いからは『味の無い綿菓子』と言われたこともある。

自分で文章を書くようになって改めて思うのが、簡潔で読みやすくありながら、なおかつ内容のある文というのは非常に難しいということ。その辺りのバランス感覚はまさしくストーリーメイクの才能なのだろう。

そういった意味で言えば、道満晴明のニッケルオデオンはストーリーメイキングのお手本のような漫画である。

今作は、読み切り短編だけを集めたショートショート集である。物語は全て8Pという枠内で展開し、そして完結する。その限られたページ内で物語を収める手法は見事と言うより他にない。

ニッケルオデオンとは、20世紀初頭にアメリカに登場した、小規模で庶民的な映画館のことである。ニッケルとはアメリカ英語で5セント硬貨のこと。安価でお手軽な娯楽として、短編映画を上映し続けるスタイルが庶民の間で大流行していたらしい。

この漫画もまさにそんなニッケルオデオンのように、ショートショートの詰め合わせとなっている。短いページ内で展開するストーリーはどこか不思議で、不条理なものも多い。
だがそれが違和感とならずに心に入ってくるのは、あらゆる意味で”ちょうどいい”からなのだろう。物足りなさを感じさせない、それでいて決してくどくならない絶妙のバランスを、道満晴明は持っている。

どこかで観たことのあるような、けれどどこにもないような、『その発想は無かったわ』が溢れる作品達。

構えることなく気軽に読める。しかし読み終わった後、必ずどこか心に残るものがある。そんな不思議を集めた作品集を、是非味わってみて欲しい。

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg