人類の進化のあり方、唐辺葉介の『つめたいオゾン』

つめたいオゾン (富士見L文庫)

結論から言ってしまうと、淡々としていて救いのない話でした。
最後の一文まで一切の救いがありません。
なぜ、数時間もかけて幸せな気持ちになれないものを読んでしまったのか…
人によってはそのような感想を抱くかもしれません。
しかし、そんな救いのない内容でも嵌まる人はどっぷりと嵌まってしまうような魅力を持った作品です。

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壮大なSF

主人公たちは共通の病気を抱えています。
その名も”アンナ・メアリー症候群”。
二人の感覚や視覚が混ざり合い、最終的に感情や行動までも共有してしまうというものです。

単純に”SFにありがちな突拍子もない病気”ではあるのですが、作中ではこの病気から人類の進化というテーマに話が広がっていきます。
ざっくりと説明すると、”人類は一つに繋がっていて、個々の人間の肉体や意識は只の端末に過ぎない”という考え方。
新世紀エヴァンゲリオンの”人類補完計画”のようなものと言えば伝わりやすいのでしょうか。

表紙とあらすじから”特殊な病気と立ち向かう男女の恋愛もの”以上のものを期待していませんでしたが、まさかこんなに濃い内容のSFが読めるとは思っていなかったため、これには度肝を抜かれました。

はじめに書いたように、本作は救いのない内容となっており、この病気に対する解決策などは提示されずに結局は病気が最終段階まで進んでしまいます。
また、プロローグとエピローグから、主人公たちも特別なことはない患者の一組ということを実感させられることでしょう。

しかし、この作品で重要なのは”病気をどう解決するのか”ではなく、”病気とどう向き合うか”なのではないか。
そう思わされるようなある意味で壮大な内容でした。

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感情移入のための導入

プロローグで”病気”についての概要、
第一章・第二章で二人の生い立ちについて
第三章・エピローグで、病気が進行していく様子
が描かれているのですが、

驚いたのは、第一章・第二章のボリューム。

プロローグ部分を読み終えた直後は、
ここから病気とどのように向き合い・解決していくのかという題材について読むつもりになっていたため、
その後に続く二人の生い立ち(過去)についての内容が始まったときには肩すかしをくらったような気持ちになりました。

そして、まだ物語の核心に触れられていないのに、どんどん減っていく残りのページ数。
まさか次回に続くオチなのかと不安になりましたが、一冊で完結しました。
そんな不安に駆られるほど、二人が出会うまでのそれぞれの生き方についてが詳細に描かれています。
正直なところ、第三章が始まった段階では、前の二章は明らかに冗長なのではないかと思っていました。

しかし、全てを読み終えたあとでこの気持ちはひっくり返されました。

第三章での登場人物に対する感情移入が半端ないのです。
二人の主人公の物事に対する考え方や行動原理がすんなりと入ってきます。

主人公たちはその病気について、どこか俯瞰的に見ている節があり、絶望する訳でも泣きわめく訳でもなく、どこか冷めていて達観しています。

一言で表してしまうと”冷めた若者”ということになるのですが、年相応の対応であるとはとても言えないです。
この章だけ切り離して考えるとあまりにもフィクションじみていて全く共感できなかったでしょう。

しかし、前の二章の内容を思い出します。
そこで描かれていた、二人の壮絶な過去。
それを考慮すると、病気に対するスタンスにも頷けるはずです。

読んでる最中と読み終わった後で、ここまで評価が変わる作品は久しぶりに読みました。
おすすめです。

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