正気と狂気の一歩先 / 死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 阿部共美

死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々(1)(少年チャンピオン・コミックス・タップ! )

「見たところむしろ低いと感じるのだが」
「178cmの悲しみだねぇ」

「悲しみの質量は?」
「さあ、60~70kg程度かねぇ」

「……、別に背負えなくはない悲しみだな」
「そうなんだねぇ」

時の流れとは実に早いもので、気が付けば師走も半ばを回りあと十日ほどで今年が終わろうとしている。
そしてこの時期の風物詩のようになっており、もはやわたしたち漫画読みの間には欠かせないイベントとなったものが、『このマンガがすごい』の発表である。
もちろんそこで紹介される漫画の中には、わたし個人の好みに合わないものもあるだろうが、知らなかった漫画を知る機会が増えたり、世間一般の評価を知ることが出来るという意味でも、それは非常に有益なものである。

その、このマンガがすごい2015において、オンナ編第1位を獲得した漫画が、『ちーちゃんはちょっと足りない』である。
この漫画は読んだことがないので、いずれ読んでみたいところではあるのだが、今回は同漫画の作者である阿部共美の最新作について書こうと思う。

さてその最新作だが、まず真っ先に目に付くのはそのインパクトであろう。
その今作のタイトルは、『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』という。実に43文字。これは恐らく史上最もタイトルが長い漫画なのではないかと思う。
そしてこれは、近年増えているあらすじを説明したような文章系タイトルの作品たちとも一線を画している。

そんな度肝を抜くタイトルの今作は、10代女子を中心に、人々のうまくいかない日常を描いたオムニバス短編集である。
全体を通してはギャグに分類されるのだろうが、決してそれだけではなく、痛々しいほど切ない話や、青春テイストを感じさせる物語もあり、作者の引き出しの多さを感じさせる内容となっている。

今作の特筆すべき点は登場人物たちの掛け合いにある。
その独特の言語感覚は他の作家にはない無二のものであろう。

ギャグらしく勢いのある会話は実に小気味よく、それは音読したときのリズム感を重視しているようにも感じる。
また出てくる単語のチョイスが特殊であり、響きは良いが冷静に考えると意味がよく分からない、それなのになんとなく通じてしまうような。そんな繋がらないようで繋がる会話を味わうことができる。

特に最終話として収められている、1/4黒ニーソメガネ児童液はその点が顕著である。
ファミレスで男女が会話をするだけの単純な物語なのだが、同じような会話を何度も繰り返しながら、徐々にカオスへと向かっていく様は、意味不明でありながら何故か引き込まれてしまう不思議な魅力を有している。
それはあからさまに狂気であり、ある意味で病的だ。
そんな正気の一歩先を、しかしこの上なくポップな絵柄で表現したものが今作なのだ。そして今作の魅力はまさしくそこにある。

つかみどころの無い物語に、むしろこちらが捕まえられてしまうような、読んだ後でどこか心に引っかかりを覚えるような、そんな物語たちを是非体感してみて欲しいと思う。

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg