『鬼灯さん家のアネキ』が代表作の五十嵐藍さんの短編集です。
姉萌えという嗜好を全面に押し出したポップな雰囲気の表紙とは異なり、今回は白をベースにした余白の多いデザイン。
どことなく暗く・退廃的な雰囲気を感じる表紙だったため、どのような作品なのだろうか……と期待半分・不安半分で読み始めたのですが、これが本当に素晴らしかったです。
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単館シネマ系
ゼロ年代の単館シネマの雰囲気と言えば伝わりやすいのでしょうか。
ほの暗い雰囲気を醸し出しながらも、淡々としていて、透明感がある。
例を挙げるなら映画『スクラップ・ヘブン』や『リリイ・シュシュのすべて』などに近いのかなと。
この辺りの映画が好きな方は間違いなく買いです。
その昔、上記の映画が大好きだった私が自信をもってお勧めします。
思い返せば、前作『鬼灯さん家のアネキ』でも物語がクライマックスに近づくにつれて、今作で感じたものと同様の陰鬱とした雰囲気が漂っていました。
そのときは、あまりに唐突なシリアスシーンに、面食らいながらもギャグ漫画に無理して緊迫感を詰め込んだだけなのだろう……と感じただけでした。本作を読み終わったときに考えが180度変わりました。
五十嵐藍さんは本当はこういう作品が描きたかったのではないでしょうか。
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日常は続いていく
さて、両手離しで誰彼かまわずおすすめして回りたいほど、私のツボを圧しまくった本作ですが、実際に人に薦めるかというと微妙なところ……
私と同じような趣味をもった人にならまだしも、残念ながら初対面の人にこの漫画を薦める勇気を私は持ち合わせていません。
なぜなら、この作品は雰囲気マンガだからです。
……雰囲気漫画というと、とてもネガティブな印象を与えてしまいそうなのですが、誤解を恐れずに言うなら物語に目的や結果がないのです。
何故このような行動に出たのか、なにが目的で、何を得たのか。
そして、作者は結局何が言いたかったのか……
どの話にも、これらは明確には書かれていないです。
つまり、具体的におすすめのポイントを挙げるのが難しい。
この漫画の素敵である理由を、ここに書き連ねることが難しい理由も同様で、”全体を通して雰囲気が良かった”としか書きようがない…
もちろん、この”全体を通した雰囲気”を説明する言葉はいくつかあるんです。
“閉塞感”とか”退廃感”とか”高校生の鬱屈とした感覚”とか。
どうしても全部ネガティブワードになってしまいます……
高校時代の鬱屈した感情に、とても共感するとか言いづらいじゃないですか。
何者かになりたい、でもなれない。
何か劇的な変化が欲しい、でも日常は変化なく続いていく。
しかし、折り合いをつけながら生きていく。
そんな後ろ向きな前向きさがこの漫画には溢れています。
若かりし頃に”自分は他者とは違う”と思っていた人には共感していただける部分が多いのではないかと思うんです。
本当にオススメです。