世界を繋ぐ創造性 / 宇宙人相場 柴村裕吏

宇宙人相場 (ハヤカワ文庫JA)

「勘違いしてませんか。やらなければならないことを、リスクという表現で隠すのが嫌いってだけです」
「よし、買った」
妙の父は静かに言った。ひどくすごみのある、言葉だった。
「喧嘩ですか」
「いや、お前を買った。自宅の住所を教えてくれ」

人類の長い歴史における三大発明について、学校で習った人は多いだろう。いわずとしれたそれらはもちろん、火薬・羅針盤・活版印刷のことである。
他にも最大の発明は、火であるとか、数字である、言葉である、いやいや車輪や歯車である、などなど、それぞれのひとにとって思い描くものは様々だと思う。

それを踏まえたうえでわたしは、人類の歴史上最も偉大な発明は”お金”である、と主張したい。より一般的な言い方をすれば、それは貨幣通貨のことであり、経済のことである。

想像してみて欲しい。
物々交換のみで成り立っている世界において、ある日突然こんなことを言い出すひとがいる。
「この綺麗な貝殻と、君の持っている野菜を交換してくれ。この貝殻を別なひとに持っていけば、そのひとの持っている肉と交換してもらえるから」
きっとわたしはこう思う。こいつは頭がおかしいのだ、と。なぜならば貝殻は食べることが出来ない。

ところがそんな風にして貨幣経済は世界中で始まり、今では貨幣が世界を支配していると言っても過言ではない。
原始時代、通貨という概念を初めて思いついたひとのことを考えると、なんだか途方も無い気分になるのだ。

柴村裕吏の『宇宙人相場』はそんな金融工学をテーマにした恋愛小説である。

今作は、オタクグッズ会社社長である主人公が、ひとりの女性との出会いを通じて、投資家への道を歩き始める……といったストーリーだ。

タイトルにもあるように、宇宙人的SF要素も含まれているが、その内容は至って現実的である。

物語はハッピーエンド。主人公は投資家として成功し美人の嫁さんを手にする、というサクセスストーリーだ。しかしもちろんこれはフィクションだからできることであって、この小説と同じ方法で誰しもが成功するわけではない。

しかしそれでもこの小説は、株式投資の知識が一切無いひとに対する啓蒙書としての側面も持っている良書である。

あとがきに書いてあったのだが、著者の柴村裕吏は実際に株式運用をしていたことがあるらしい。そういわれてみれば確かに、この内容は実際に体験したひとでなければ書けないと思える。

大敗したときの足元が崩れるような絶望感や焦燥感。あるいは大勝したときの震えるような喜びなど、かつて株式投資を経験したわたしとしては身につまされるものがあった。
また今作の中で何度も言われることだが、「株式投資は元手がないと勝つことはできない」というのはまさしくその通りで、わたしが株をやめたのもそれが理由である。

ゲームデザイナーとしての本業をもつ柴村裕吏が書いている今作は、良い意味でオタク的要素も強く、金融に興味が無いひとであっても、ライトノベル的に読める作品となっている。
一部、人称に違和感を覚える部分もあったが、文体は読みやすくノリも軽い。難しい経済用語も分かりやすく端的に解説されているので頭に入って気やすい。
そしてなにより、ヒロインである妙が可愛いのである。これが何より重要なことである。

アニメ化もした大ヒット作、狼と香辛料を楽しく読めるひとであれば、同じ楽しみ方できっと受け入れられるであろうと思う。

一方で、裏表紙のあらすじ書きには恋愛金融SFと書かれているが、実際のところ今作における宇宙人要素はかなり薄い。そういった、SF的なものを期待している方には注意が必要だろう。
かくいうわたしも、元々はそんな内容を予想して購入した本であった。

だが、その点を抜きにしても今作は充分に楽しめる内容である。

今作は、株をやっているひとも、株をやったことがあるひとも、これからやろうと思っているひとも、もちろん株なんて興味ないよと思っている貴方でも。きっと誰もが共感できる小説であろう。なぜなら、この日本で生きる以上、金融・経済から離れて暮らすことは誰にも出来ないのだから。
 
 

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人が物語を読むのは、人生が一度しかないことへの反逆だ。 そんな言葉を言い訳にして、積み本が増えていく毎日。 Twitter:pooohlzwg